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科学は歴史で覚えて欲しい:「生物と無生物のあいだ」福岡伸一

いまさらといわれても仕方がないのだが、
ブームが去った今だから、まだ読んでない人には読んで欲しい。



福岡伸一さんは、青山学院大学理工学部の教授で、分子生物学を専門としている。

なので、私は長いこと、この本が、
いわば、生命とは何か?の専門家による「生物」の定義の本、だと思っていた。

その割には売れているなとか、
第1回の科学ジャーナリスト賞を受賞したんだ(おめでとうございます)
とか、やっぱり新書は科学本でも売れるんだな、位にしか思っていなかった。

大間違いだった。

私の持っている本では、帯に「サントリー学芸賞受賞」とある。
サントリー学芸賞は、
「広く社会と文化を考える独創的で優れた研究、評論活動を、著作を通じて行った個人に対して」(同賞hpより)
贈られるもので、この本は、2007年度の「社会・風俗部門」の同賞を受賞している。

養老孟司さんによる選評が、十分な書評なので、それを読んで頂きたいのだが、
考えてみると科学の最先端の問題である「生命とは何か?」について書かれた本が、
「社会・風俗部門」の賞を受賞することが、すでにかなり「不思議な」事である。

それは、この本が「理科系ではない選考委員から、文章がいい、品があるという評があった」(養老さんの選評より)
からだろう。科学本ではなく、「読み物」としてきわめて優れている。
しかも、養老さんが「適度の抑制を効かせ、しかも感情(熱情?)をまじえて語るのは、科学の分野では簡単にはできないことである。著者のその面での才能は貴重である。」と指摘するとおり、実に文章のバランスがいい。
それは、福岡さんご本人の人間としてのバランスの良さなのだろうと思う。

著者のここ一、二年のマスコミでの活躍は、ご存知の方も多いと思う。
私には、対談や、座談会で、実に切れ味を発揮する方だという印象がある。

多くの編集者が狙っているといううわさも聞く。

本屋が、著者に集まるのは、読者が著者を基準に本を買うからだという。

それはさておき、この本を読んで私が感動したのは、シャルガフエイブリーという
「アンサング・ヒーロー(縁の下の力持ち)」を取り上げながら、
DNAが遺伝の仕組みの根幹を握っていることに迫る記述だった。
個人的なある思いから、胸が一杯になったからだった。

私は、長く科学誌の編集にかかわっていた。

その関係で、2000年に、ある電力会社の記念品として
20世紀の科学の歴史を分野を越えて一覧するCD−ROMを作った。

このとき、あまりにも膨大な科学の成果のなかから、
600あまりをチョイスするという「暴挙」をかってでてくれたのが、Yさんだった。
彼は、私の大学時代からの友人で、専攻は教育学なのだが、
ちょうどそのときある出版社を辞めて、浪人中だった。
別に科学に関わりはなかった。

その彼が、シャルガフの等量仮説はもちろんだが、
エイブリーの「DNAが遺伝子の本体であることを示した」研究を掲載することを強く押した。

たしかに、エイブリーが仮説を提示したのだが、その評価は決して高くなかった。
DNAの二重らせんの発見でノーベル賞を受賞したワトソン、クリックに比べると、あまりにも地味だ。

しかし、彼は、エイブリーこそが評価されるべきだと譲らなかった。

その理由が、本書を読んで初めてわかった。

改めて、Yさんの慧眼を思った。
彼と友人である幸福をあわせて思った。

だから、この本を紹介したくなった。

生物と無生物のあいだ (講談社現代新書 1891)

科学の面白さは、成果だけではなく、歴史つまりストーリーにあると思う。
それを、この本を読んで感じて欲しい。

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